活動計画・記録
『宣伝会議』編集長 谷口 優 氏
『宣伝会議』は1954年創刊のマーケティング・コミュニケーション専門誌で、2010年11月に通刊800号を迎えました。58年間の本誌特集内容から企業活動の変遷を振りかえってみます。
1960年代は急激に拡大する消費者の需要をいかに効率的に刈り取るかが企業のテーマであり、何か新しい機能、商品などを伝えることで売り上げにつながった時代と定義できます。そういう意味でこの時期は、マス広告の重要性が強く認識されていました。
1970年になると「広告のフィールドから公害を考える」とか「環境開発と広告」という特集が出てきたほか、商品機能を伝えるだけではなく商品が与える新しいライフスタイルや価値観を提示する広告が出始めています。公害問題も起こり野放図な大量生産、大量消費に警笛が鳴らされ、広告活動にも社会性が求められた時代でもありました。
1980年になると市場の成長に鈍化傾向が出始め、限られたパイの中で競合企業との激しい戦いが始まります。「競争優位に立つための差別化戦略」というような特集を改めて見ますと、差別化ということを非常に重要視する時代になってきているのがわかります。
1990年になると市場はさらに成熟してきて、競合を意識するよりもお客様に目を向け、顧客満足度とかお客様満足という視点の提案が本紙の記事・特集に多くなってきます。
2000年になると、顧客満足度がさらに進化して、双方向とかワン・ツー・ワン・コミュニケーションというように、お客様一人一人としっかりコミュニケーションしていこうという顧客との関係性づくりということにまで目が向いてくるというのが特集内容を見てわかります。
これまでの企業活動の変遷を経て、いま、ソーシャルメディアといったものに対する関心が高まっているのも、お客様との関係性を作る上で伝えるから繋がるというところに企業の関心が集まっていることが要因ではないかと感じています。
ソーシャルメディアの話に入る前に、もう1つの大きな変化として挙げなければならないのが東日本大震災です。編集部では毎年100人ぐらいの宣伝関係者に意識調査アンケートを行っていますが、震災以降とそれ以前では大きな変化が出ていることが伺えます。例えば広告に求めるものはという問いに、1年前は最小投資で最大効果とか売り上げへの効果を重視する視点が強く出ており、そのための新しい手法としてスマートフォンとかソーシャルメディアを使ってみたいという声が多くありました。震災直後に同じようなアンケートをして非常に大きな意識変化だと感じたのは、社会における自社の企業や商品の存在意義は何かということを改めて問い直して、商品ブランドを伝えることの大切さはもとより企業スタンスや活動そのものを理解してもらうための広告がしたいという回答が非常に多くなったことです。これまでは他社と比べてわが社はここが違うという相対的価値が起点になっている広告活動だったものが、震災以降は、自分たちの思い・理念・志という絶対的な価値を伝えていきたい、そして共感をテーマに掲げるという回答が増えています。このような企業意識に変化が起こり、共感が連鎖していく双方向コミュニケーションを実現させるツールとかメディアへの関心が高まっているのが昨今の流れといえます。
ただ、インターネットの登場で単にコミュニケーションツールが一つ増えたという以上にメディア環境が変わりましたが、ソーシャルメディアはそれ以上のインパクトを与えているのではないかと感じています。
新しいメディアと手法により企業と消費者との出会い方が多様化してきていますが、だからこそマスメディア、マス広告に対する期待、役割というのも逆に明確になってきているようにも感じています。
これだけメディアが増え情報量が増えると、お客様が商品を購入するまでの情報収集の経路が複雑化し情報量も非常に増えていますので、関係ない情報と思ったら即座にシャットダウンしてしまうので逆に消費者の視野が狭まってくる。そうなるとブランド想起の数が減ってくるため、いつも買っている商品を買い続けてしまい、なかなかブランドスイッチがしづらいという状況が生まれてきています。
ブランドが忘れ去られてしまう、お客様の視野が狭まり接点が作れなくなってしまう、というような危機感を聞くことが多々あります。だからこそあえて今、一斉告知では絶大な力を持つマス広告を打つことの意味を考える企業もいるわけです。ただ、役割分担のようなものができてきて、ソーシャルメディアとマス広告をどう組み合せたら最も効率的かとか、お客様に共感されるかということを非常に真剣に考えています。
いま企業が向き合っている課題、悩みは、極論するとこれしかないのではないかと思われます。お客様の情報の入手経路が多様化して爆発的に情報量が増えているため、企業が発する広告の影響力や価値が相対的に下がってきているという危機感です。そういう状況の中で、マス広告だけではない他の手段も考えなければならず、しかも伝えるべき接点というものも増えていて、どれを選んでコミュニケーションをしていけば良いのかということを非常に悩んでいると感じています。
ここ数年、ターゲット層が違う企業が一緒に販売促進活動をするとか、商品開発をするという企業コラボが増えてきています。新しい顧客設定のつくり方の一つになっているということですが、お客様とどういうふうに接点を作っていくかが非常に大きな課題になっているように思われます。
こういう課題にどうしたら答えられるのかと日々考えているのが宣伝会議編集部の現状です。非常に難しい課題であり、皆様方のように広告、メディアの知見を積まれてこられた方々のアイディアが今こそ企業の求めに対して生かされていくのではないかと思っています。
非常に駆け足で『宣伝会議』の特集から見る企業活動の変遷と現状について話しをさせていただきました。当社では雑誌以外でも、広告主の新しいCMや広告業、メディアの新しい動きなどが無料で見られる「アドタイ」というWebサイトも展開しています。私どもは広告実務を積んでいる立場ではないので、こういったところから皆様からの質問やコメントをいただくサイトにしているので是非一度ご覧いただくようお願いいたします。